九条を守る運動の発展をめざして
2010年2月23日 みやざき9条の会 | 意見・感想 | コメント(0) | トラックバック(0)
「みやざき九条の会」 藤原 宏志
1. ホッケのはなし
ホッケという魚は寒い北海の底に生息する根魚である。普通の魚にある浮き袋がない。したがって、海中を泳ぐときは尾びれを強振し水を後方に蹴らなければ前進・浮上することができない。春になると流氷が溶けるとともに、流氷が蓄えていた養分が海中に放出されプランクトンが大量発生する。海の表面近くに浮遊するプランクトンはホッケの餌であるが、根魚で浮き袋のないホッケは海の表面まで泳ぎ上がり浮遊する餌を捕まえるのは苦手である。おまけに海面近くにはホッケの天敵であるカモメが待ちかまえている。ホッケが餌を手に入れるためには、海面に浮遊するプランクトンをかき集め、カモメの届かない深さまで持ってくる驚異の作業が必要になる。
そこでホッケは数万匹の大群で海中に大きな渦をつくり、その渦の力で海面近くのプランクトンを吸い寄せ海面下数メートルまで引き込むのである。その渦の水流は秒速0,5m、これでも人間を巻き込むほどの力になる。
この海中渦をつくるためホッケはホッケ柱と呼ばれる群体をつくる。これは、数万匹のホッケが輪を描きながら一斉に海面めがけて上昇する。海中でみるとその群は十数メートルの柱状になることからホッケ柱と呼ばれている。この柱は浮き袋のないホッケが尾びれを強振し海面に向かって泳ぐ結果、尾びれに押された海底向けの水流が発生して渦を形成する。渦に巻き込まれたプランクトンは海面下数メートルまで引き込まれホッケの餌となる。餌を食べたホッケは後続のホッケに席をゆずるため下降し、また上昇する。こうしてホッケはカモメの襲撃を受けることなく、海面近くに浮遊する餌・プランクトンを捕食するのである。
2. ホッケの「群知能」
ホッケ柱の観察で判ったことの一つに、この見事な集団行動に「リーダーはいない」という事実がある。これはもっとも重要な事実と思われる。集団行動には集団を指導する、あるいは集団に命令する統率力のあるリーダーが必要という既成概念が私たちの中にあるのではなかろうか? ホッケ群にはリーダーがいないのになぜ統一された行動がとれるのか?
ホッケの約束・行動基準
ホッケは持ってうまれた本能、永い進化の過程で遺伝子に組み込まれた行動基準を持っている。その基準は次のとおりである。
- 互いにぶつからない
- 中心に向かって動く
- 上に向かって動く
- 捕食したら下方に動く
各個体がこの単純な条件を備えていれば、リーダーがいなくても周辺の状況に応じて、個々の判断で複雑な集団行動をとることができ、結果として集団・群に利益をもたらすことができる。難しい理論はともかくとして、これが「群知能(Swarm Interigence)」と呼ばれる科学である。群知能という考え方は生物行動の観察から生まれ、いまやロボット工学や自動制御という先端科学の発展に大きく寄与している。
3. 九条の会の運動
小森陽一氏のはなし
「九条の会」の事務局長である小森陽一氏は、2005年12月に開かれた全国交流集会で「九条の会」の運動について「人間の信頼関係を再構築する運動」であるとし「極めて伝統的な日本社会の民衆の文化的な記憶に根ざした運動だと、私は誇りを持っています。講という運動のあり方なんです。頼もし講とか無尽講って聞いたことがあると思います。(中略)実は今そういうことを私たちはやっているのです。(中略)今のギスギスになってバラバラにされている社会を、もう一回人間らしい社会として取り戻す。そいう運動だということです。」と述べている。
運動体としては、少なくとも従来の運動体に較べ曖昧であり、組織的には脆弱に見えるかもしれない。九条の会は九人の識者による短い呼びかけ文に呼応する集団であり、強いていえば、「憲法九条を守りましょう。世界に広げましょう」という、一点での個人の集まりであり、思想・信条などの違いを越えた集まりである。いわば、きわめて単純・簡潔な絆・約束であるといえよう。
世話人会の運営について
みやざき九条の会は発足して5年が過ぎようとしている。九条の会の主役は会員であるが、会の日常的な活動は世話人会に負うところが大きい。とりわけ世話人会事務局の負担は会が大きくなり活動が広がる中で過重になってきている。ゆるやかな組織である九条の会は指揮命令系統が整備された組織と異なり、会員有志の自発による世話人会で運営されており代表世話人も特別扱いはされない。会運営の実務は会が発展するにつれ増加することはあっても減ることはない。これは発足当初から予測されたことであり、ことばを換えれば会が発展し、新しい段階にきたことの証でもある。会のゆるやかさを残したまま増大する実務に対処する方法を考えなければならない。
これまで世話人会の運営は事務局長を中心に行ってきたが、事務局長の負担が増える一方、世話人会の経験も蓄積され、各世話人が事務局運営を遂行することが可能になったと判断される。そこで新しい事務局運営として、各世話人が毎回交番して座長となり世話人会を運営するとともに、事務局長を廃止することが提案されている。世話人は会の運営に必要な事項を各自分担し、増加が予想される実務に対応する体制をとることになる。
いまこそ「九条を守る運動」を
日本国憲法第九条は世界平和を実現する確かめられた究極の手段である。それ故に「世界の宝」なのである。オバマ米大統領の「核廃棄」へ向けたメッセージは核使用の前歴がある国の指導者の発言として意味があるが、憲法九条と較べれば小さな一歩であろう。
約束ごとが単純であれば、組織としての体をなさないのではないかという不安もあろう。
しかし、ホッケはリーダーもなく、個体の単純な行動基準で見事な集団・群行動を行っている。
九条の会は「憲法九条を守ろう、広げよう」という単純な行動基準のもとで、会員がそれぞれの状況に応じて工夫し、出来る範囲で活動することにより平和な世界を作ろうとする運動である。あくまでも「自分のできる範囲で自分のやり方」で進めることである。時には井戸端会議で戦争の怖さを話すこと、お年寄りから戦時中の苦労を聞くこと、そんな小さな一歩、半歩が「九条を守り、広げる」ことになる。
表示トラックバック(0)
トラックバックURL: http://sato.kilo.jp/mt4/mt-tb.cgi/1157
コメントする